元帥閣下は勲章よりも男装花嫁を所望する

「皆の者、ご苦労だった。わが軍の勝利だ」

レオンハルト様がそう言うと、甲板にいた兵士たちから緊張が解けていく。彼らは勝利を近くにいる仲間たちと喜び合った。

「どうだ、ルカ。初めて前線に立った気分は」

兵士たちの方を向いていたレオンハルト様が振り返り、私に笑いかける。

「ええ……そうですね、なんというか……レオンハルト様が不敗の軍神と呼ばれる理由がわかりました」

渦に敵艦隊をおびきよせて沈めてしまうなんて。思いつきはしてもこれほど華麗に実行して成功してしまう人は他にいないだろう。

「素晴らしいです。無闇に敵と衝突するより、味方の犠牲がかなり少なくて済みます」

素直に賛辞を贈ると、レオンハルト様はにやりと不敵に笑った。

「美しい副官に褒めてもらえて光栄だな。しかし勝利は俺の作戦と指揮だけでつかめるものじゃない。ここにいるみんなのおかげだ」

みんなのおかげ、だって。陸軍でそんなことを言う上官はいなかった。軍人はみんな、自分の武勲を立てることだけに必死になっていると思っていた。

戦場を見るのが嫌になったというレオンハルト様だけど、やっぱりこのひとは普通の軍人とは一味違う。

「……そういう考え方も、好きです」

「ん?」

< 63 / 210 >

この作品をシェア

pagetop