元帥閣下は勲章よりも男装花嫁を所望する
感じたことのない痛みが熱さとなって左腕から力を奪っていく。
「ルカ、おいルカ!」
レオンハルト様が私の名を呼ぶ。
「大丈夫か。すぐに手当てしてやるからな。誰か、船医を呼んでくれ!」
「……だめ……。やめてください……」
船医に治療してもらうということは、私が女だとばれてしまうということ。それは阻止しなくては。
「なんだと」
「こんなの、かすり傷です。すぐに塞がりますから……」
必死で船医の診察から逃れようとするけど、左腕からの出血は意外に多く、しびれてきた指の先まで血液がしたたっている。
「俺が呼んでくる」
ライナーさんがその場から階段を降りていく。
「ダメ……」
「何だって言うんだ。ルカ、とにかく傷を見せろ」
「いやあああぁっ」
叫んでも、レオンハルト様の手は容赦なく私の軍服を下に着ていたシャツやさらしごと、腰から抜いたナイフで切り裂いた。
「嫌だって……言っているのに……」
自分の目に涙が浮かぶのがわかった。まぶたを閉じ、顔をそらす。雨粒が落ちてきて、レオンハルト様の目の前にさらされた裸の胸を濡らした。
「お前……!」
レオンハルト様が息を飲む音が聞こえた。と思うと彼は素早く自分のスカーフを取ると傷口を縛りあげ、軍服を脱いで私の身体を包んで隠した。