元帥閣下は勲章よりも男装花嫁を所望する

二人は冗談を言ったつもりなのか、私を安心させるつもりなのか、定かではないけど顔を見合わせて声を出して笑う。

いやいや、何も楽しくないですから。

「私の怪我をクリストフが治療してくれたということですね。どうもありがとう」

ちらっと見えた感じでは、皮膚が傷ついただけみたい。何針か縫われた跡があった。弾丸が肉や骨をえぐるなど、重症ではなかったんだ。

少し痛みはあるけれど指先まで問題なく動く左腕の感覚に安堵する。けれど、問題は他にも多数浮上している。

「ここはアルバトゥスの領地、モンテルカストの宿屋。あの戦闘のあと、補給と休息、整備のために立ち寄った。他の者は海軍専用の宿舎にいる」

私が疑問を投げかける前に先に説明するレオンハルト様。

モンテルカスト。その名前は海図で見た覚えがある。そう大きくない島だけど、本国と同じ暮らしができるだけの設備はあるはず。あの戦闘があった場所からそう離れていない。

エカベトまでは相当の距離がある。モンテルカストは補給基地として、昔から重要な役割を担ってきた。

とにかく、今は兵士のみんなはつかの間の休息をとっているわけだ。

「クリストフ、席を外してくれないか」

クリストフがうなずいて立ち上がると、レオンハルト様が代わりに座る。

「何か飲み物をお持ちしましょうか」

「いや、いい。俺がいいと言うまで誰も近づけないでくれ」

「御意」

短く頷き、クリストフは若者らしい無駄のない動作で、その場を去っていった。
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