元帥閣下は勲章よりも男装花嫁を所望する
「で。優しい娘は、父親の期待を裏切りたくなくて、そのうるわしき体を軍服に包んで生きてきたというわけだ」
腕を組み、ひとりで納得したようにふむふむとうなずくレオンハルト様。
うーん……優しいって言われると馬鹿にされたような気がするし、後半は恥ずかしくて同意しづらい。うるわしき体って何。
「逆らえなかっただけです」
決して私自身が望んだ生き方じゃない。でも、父上が怖くて積極的に反抗しようとしなかったのも確か。
「……そうか。それで、俺が一番聞きたいのはだな」
レオンハルト様は立ち上がり、ベッドに片手をつく。もう片方の手で私のあごをとらえた。
「一年前、俺が元帥に昇進したあの日だ。ピコなんとかというふざけた名前の公爵にワインをぶっかけたのは、お前か?」
見えない鎖が、私を縛りあげる。逃げることは許さないというように、真っ直ぐに私を見つめるアンバーの瞳に嘘をつく気にはなれなかった。
「姉が、病気で……代理として、あの日だけ、たった一日だけ女に戻りました」
ぽつりぽつりと白状する声が震えた。
失望されるかもしれない。だましていたと言って処断されるかも。ずっと上官を欺いていたんだもの。