元帥閣下は勲章よりも男装花嫁を所望する

けれどレオンハルト様は怒る様子はなく、あごをとらえていた手を放し自分から目を逸らすと、ふうと小さくため息をついた。

「どうして気づかなかった……早く気づいていれば、女にこんな怪我をさせることも……いや、戦場に連れてくることもしなかったのに」

その言葉は、彼自身にあてられたもののようだった。

何を言ったらいいのかわからなくて黙っていると、レオンハルト様は顔を上げた。その目には、決意の色が浮かんでいた。

「ルカ、俺と結婚してくれ」

予想しなかったセリフが、目の前を駆け抜けていく。

「へ……?」

思わずマヌケな声が出てしまう。

「あ、あのう。姉のエルザは本当に私にそっくりなんです。でも私より女性らしくて、優しくて、料理もお裁縫も、歌もピアノもなんでもできて……」

「ほう」

「だから、理想の花嫁というなら、エルザの方だと思うんです」

自分でも、どうしてこんなことを口走ってしまうのかわからない。男として生きてきたから、男性にプロポーズされる日が来るなんて思ってもみなくて、混乱してしまう。

破裂してしまいそうな心臓をどうにか止めようとするのだけど、上手くいかない。頬が熱くて、どうしようもない。

レオンハルト様はじっと私を見つめて、形の良い唇を動かした。

「エルザには会ったことがないから興味がない。俺が追い求めていたのは、お前だ。ルカ」

< 72 / 210 >

この作品をシェア

pagetop