元帥閣下は勲章よりも男装花嫁を所望する
けれどレオンハルト様は怒る様子はなく、あごをとらえていた手を放し自分から目を逸らすと、ふうと小さくため息をついた。
「どうして気づかなかった……早く気づいていれば、女にこんな怪我をさせることも……いや、戦場に連れてくることもしなかったのに」
その言葉は、彼自身にあてられたもののようだった。
何を言ったらいいのかわからなくて黙っていると、レオンハルト様は顔を上げた。その目には、決意の色が浮かんでいた。
「ルカ、俺と結婚してくれ」
予想しなかったセリフが、目の前を駆け抜けていく。
「へ……?」
思わずマヌケな声が出てしまう。
「あ、あのう。姉のエルザは本当に私にそっくりなんです。でも私より女性らしくて、優しくて、料理もお裁縫も、歌もピアノもなんでもできて……」
「ほう」
「だから、理想の花嫁というなら、エルザの方だと思うんです」
自分でも、どうしてこんなことを口走ってしまうのかわからない。男として生きてきたから、男性にプロポーズされる日が来るなんて思ってもみなくて、混乱してしまう。
破裂してしまいそうな心臓をどうにか止めようとするのだけど、上手くいかない。頬が熱くて、どうしようもない。
レオンハルト様はじっと私を見つめて、形の良い唇を動かした。
「エルザには会ったことがないから興味がない。俺が追い求めていたのは、お前だ。ルカ」