元帥閣下は勲章よりも男装花嫁を所望する

名前を呼ばれて、息すら止まりそうになる。

「ただ女性らしい女性なら、どこにでもいる。俺は間違ったことは間違っていると言える、弱き者を助ける勇気のあるお前が好きだ」

「レオンハルト様……」

「どうしてもっと早く本当のことを言わなかった、バカ」

レオンハルト様の大きな手が、私の頭頂部に乗った。

「男として戦艦に乗るなんて、怖かっただろ。これまでずっと、辛い思いをしてきたんだろ」

「う……」

「もう無理しなくていい。本当のお前に戻れ、ルカ」

落ち着いた声音が鼓膜を打つ。陽だまりのように優しく微笑むレオンハルト様の顔を見ていたら、なぜか涙が溢れて落ちた。

「本当の……」

重い軍服を脱ぎ捨ててもいいと言うのだろうか。人目を誤魔化すためのさらしや、帽子も。

もう、隠れなくていい。こそこそしなくていい。

それは今までに感じたことのない、甘い誘惑だった。

「でも」

一度陸軍に所属してしまった以上、下手すると父上も私も一緒に皇帝陛下を欺いたとして処断されかねない。

なにより、私が女に戻ってお嫁に行ったりしたら、父上がどれほど落胆することだろう。

父上の最後の希望や期待を一身に背負ってしまった私がそれを放り投げたら。誰がそれを受け止めてくれるのか。

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