元帥閣下は勲章よりも男装花嫁を所望する
初めて見る彼の姿に驚く。大海のようにゆったりとしていて、動じることなんてないような人なのに。
「レオンハルト様、起きてください」
頬をなでて声をかけるけど、苦悶の表情は消えない。
仕方ないので肩を叩いて揺さぶる。何度も名前を呼ぶと、ようやくレオンハルト様が目を開けた。
ハッとしてしばらく呆然としていたレオンハルト様の焦点がだんだんと合ってくる。
「ルカ……」
低い声はかすれていたけど、表情がいつものレオンハルト様に戻っていてホッと安堵の息をつく。
「大丈夫ですか、レオンハルト様」
汗を拭うように首筋を撫でると、横になったままの彼の手が私の手をつかんだ。
「……つまらない夢を見た」
「そうですか。どんな夢かお聞きしても?」
子供のようだと笑う気にはなれなかった。少しでもレオンハルト様の心が落ち着きますように。そう念じながら見つめると、彼は力なく首を横に振った。
「そばにいてくれ、ルカ」
夢の内容を話す代わりにそんなお願いをしてくるレオンハルト様。
彼の手が伸ばされ、導かれるように横になった。寄り添う私を、レオンハルト様が抱きしめる。
その力は強く、まるで失った何かを必死でとりもどそうとしているようにも思えた。
「お傍にいます。レオンハルト様」
顔を上げてそう告げると、レオンハルト様のアンバーの瞳と目が合った。暗闇の中で光る瞳は、今まで見たことのない光を宿していた。
「ありがとう」
彼は呟き、再びまぶたを閉じた。私もそれにならった。静かになった途端、窓の外から聞こえてくる波の音がやけに耳に響いた。