元帥閣下は勲章よりも男装花嫁を所望する
栄光の陰にあるもの
翌朝。
「提督様、どうして今回はうちのお店に寄ってくださらなかったの?」
「みんな提督様にお会いできるのを楽しみにしていたのに~」
「もう行ってしまわれるなんて、信じられない!」
搭乗する前に、我らが元帥閣下レオンハルト様は派手な女性たちに囲まれていた。
夜中にお酒を扱い、男性を接待するお店の人たちだろう。仕事を終えてから見送りに来てくれたのか、真っ赤な口紅が塗られた口からお酒の匂いがした。
「けっ、なんだよレオンハルトばっかり」
ライナーさんがレオンハルト様を囲む女性たちを横目で見て小声で悪態をつく。
「顔面偏差値と階級の差だよ。ライナーも悔しかったら元帥になるといい」
「うるせ!」
アドルフさんにハッキリ言われ、誰も見送りに来ないライナーさんは悔しそうに背を向けると、船の方に走っていった。
「いやー参った参った」
顔にキスマークを付けたまま、私たちに少し遅れて船に乗り込んできたレオンハルト様。だらしなく緩んだ頬が決して嫌な気持ちになっていないことを表している。
「いつもここに寄ったときは彼女たちと遊んでいたんですね」
そういう自分の声は、意識していないのに鋭いトゲを含んでいるように聞こえた。