元帥閣下は勲章よりも男装花嫁を所望する
クリストフはシチューを口に運びつつ、相変わらず小声で話す。
「ああ、精神的に負担がかかるとってこと? 大丈夫だよ。私わりと、めげない性格で……」
「いえ、そうではありません」
シチューを飲み込み、ナフキンで口を拭うと、クリストフはテーブルから身を乗り出し、私に耳打ちした。
「航海の間に元帥閣下のお子さんを身ごもられたりしたら、大変ですから」
み、みごも……?
そうだ私、女だった! そういう可能性がゼロじゃないんだ!
改めて自分の状況に気づき、呆然とする。
今までは月のモノさえ忌むべき存在として無感情に手当てをするように努めてきたけど、それがあるってことは、妊娠する可能性がなきにしもあらずってことだ。
「……っていうか、どうしてクリストフはそんな心配をするの? 私とレオンハルト様は何も……」
一応とぼけてみる。するとクリストフはあきれた表情でため息をついた。
「雰囲気でわかるでしょう。あの夜私は同じ宿屋に泊まりました。あなたが急変するといけないからです。だからあなたと元帥閣下が同じ部屋で一夜を共にしたことも知っているし、あなたの肌のつやを見れば何があったか一目瞭然です」