元帥閣下は勲章よりも男装花嫁を所望する
しかしながら、その夜も次の夜も、レオンハルト様は私を同じベッドに寝かせはするものの、抱き枕として利用しているようで、それ以上のことはしてこなかった。
私の方から『傷が癒えるまでは勘弁していただきたい』と言ったので、レオンハルト様はその通りにしてくれているのだろう。
初夜が強引だっただけに、拍子抜けというかなんというか……。
彼がうなされることもなかったので、それでよしとするか。
私が心配しすぎているだけで、彼が夢にうなされたのはあの夜だけだったのかもしれない。それが前々からあったかもとか、これからもあるかもなんて、どうして思ったんだろう。
「アドルフさん、レオンハルト様を見ませんでしたか?」
甲板で操舵輪を握っているアドルフさんに声をかける。
「ああ、彼ならあそこ」
アドルフさんが上空を指さす。そちらを見上げると、三本あるマストの中央の一本にある見張り台に、誰かが立っていた。
船首の方に歩いていき、もう一度上を見直す。すると通常は下級兵士が交代で立っているその場所に、レオンハルト様が突っ立っている。望遠鏡を持つでもなく、ただぼんやり海原を見下ろしているように見える。