【完】こちら王宮学園生徒会執行部
「ごめんね。持ってきてくれてありがとう」
それだけ伝えて、彼が脱衣所を出ていったことを音で確認してからお風呂を出る。
何事もなかったかのようにワンピースに着替えて、リビングに顔を出した。
ねむる前になにか飲もうかな、なんて考えていたら。
キッチンに向かう前に「南々瀬」と呼ばれて、彼に近づく。
先にお風呂に入って、きっと面倒がって髪を乾かしていないはずなのに、いつみの髪はいつも通りさらさら。
手を伸ばしてやわらかいそれに触れると同時にくちびるを奪われて、思わず目を見張った。
嫌ではないけど、なぜ唐突にキス……!?
「い、つみ?」
あまりにも唐突すぎて動揺したわたしのくちびるに、軽く触れただけで離れた彼は。
なぜか不敵な笑みを浮かべて、焦らすように指でわたしの首筋を撫でる。
「な、に……?」
「お前、嘘つくの下手すぎるだろ」
「え、」
「"着替えを忘れた"なら、脱衣所に明らかに着替えが置いてあるのはおかしくないか?」
かあっと、全身が熱を上げた。
そうだわたし、着替えを忘れたからと言って持ってきてもらったのに、お風呂にもどるときにそのままいつもの場所に置いて……っ。
いつみに気づかれないようにあとで封印しようと思って、いまは脱衣所に置いてきたけれど。
怪しすぎるわたしの行動の理由に気づいたように、彼は楽しげに笑う。
それから「南々瀬」と甘い声でわたしを呼んでくるいつみを見て。
逃げられないなと、静かに自分の負けを悟った。