【完】こちら王宮学園生徒会執行部



グラスを傾けて、オレンジが浮かぶ液体を口にふくむ。

微かな酸味が喉の奥を締め付けて、嚥下すると同時にこくりと音が鳴った。



「はじめから、

わたしのことターゲットにしてましたよね?」



「何の話?」



「柑橘系の酸味でごまかせる程度のアルコール、入ってますよねこれ。

手っ取り早い方法で潰すなら睡眠薬でもよかったのに、そうすればいつみに確実にバレる。だから、少量のアルコールを混ぜた」



ノンアルコールだと言われて飲んだのに、わたしが潰れたとなれば、確実にいつみは彼を疑う。

それを避けるために、ばれない程度だけ。



「何なら、彼に飲んでもらいましょうか?

何を薄めたのかは知りませんけど結構な度数なので、いつみが飲めば確実に酔いますよ」



梅酒すこしも飲みきれずに酔う彼がこれを飲めば、アルコールが入っているかの証明は容易い。

そう言ってグラスの端に残った雫をくちびるで掬うわたしに、彼はふっと笑みをこぼした。




「恋愛に盲目な女って、馬鹿っぽくて嫌いなんだよね。

だから相手に呑まれないような敏い子が好きなんだけど、きみほど敏い子ははじめてだよ」



キシッと音を立てて席を立ち上がった彼が、わたしのとなりへ腰掛ける。

その際にまた軋んだ音が鳴って、部屋の空気はやけに扇情的だった。



「新見の姓になって、

この城を一緒に築いていくのはどう?」



口元に笑みを敷くリナさん。

わざとらしい口調ではあったけれど、その笑みに毒気はなかった。



「それもきっと素敵だとは思いますけど。

……考えるまでもなく、お断りします」



駆け引き? 隠し事?

そんなものよりも、もっと大切なもの。



わたしが好きになったのは。

王宮学園という巨大な城の中。揺らぐことのない、漆黒の──絶対王者、ただひとりだ。



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