【完】こちら王宮学園生徒会執行部
……なんだろう、この違和感。
見た目に変化はないのに、なんだかとてつもなく違和感を感じる。もしかして。
「……酔ってる?」
「……、若干な」
若干って。向こうでお酒を飲んできたのかと彼を見つめれば、そういうわけではないらしい。
むしろ一滴も飲んではないようで、「すぐそばで度数の強ぇ酒つくってたんだよ」と疲れたように言ういつみ。
……香りで酔ったとか、そんな感じだろうか。
でももしそうなら、本気でお酒に弱いんだな、と思いながら。彼の頭に手を伸ばして、髪を撫でた。
「そうね、今日で休みも終わりだもの。
帰ってゆっくりしましょうか」
言って、ソファを立つ。
それからリナさんを振り返れば彼はもう、さっきのやり取りをわたしと続ける気はないようで。
「また来てね、南々瀬ちゃん」
「二度と連れてこねえよ」
「あ、そうだ。コレあげる」
いつみの言葉を完全にスルーした彼は、黒い小さな紙を取り出す。それの裏にさらさらとペンで走り書きして、手渡してくれた。
『新見リナト』と書かれたそれは、どこからどう見ても名刺だ。
いつみが初っ端に案内してくれた男性に見せていたのと同じもの。
裏返すと5桁の英数が書かれていて、何らかの意味があるらしい。
「店に来てそれ見せたら、通れるから」
いつでも来てね、と。
やわらかく笑った彼は。それぞれのカラーで囲まれた3枚の扉が並ぶ入り口まで、わたしたちを見送ってくれた。