【完】こちら王宮学園生徒会執行部



一度だけ、かかってきた電話。

コールすればすぐに『早いね』と笑うような声。



「悩むことなんてなかったでしょう?

はじめからわたしには答えなんてひとつだけだもの」



大丈夫。

この話を呑んだって、不幸になるのはわたしだけ。ただ、まわりのみんなに迷惑はかけてしまうかもしれないけど。



「あなた今どこに滞在してるの?」



問えばしれっと返ってくるのは有名高級ホテルの名前。しかも平然とスイートルーム。

学校名や茉文の名前で泊まっているなら厳しいところだったけれど、既に話が済んでいるらしく、名義は政界の人間の名前。



……ならば金曜日まで身を隠すことくらい容易いだろう。

そのまま茉文と海外に飛んでしまえば、いつみたちもさすがにわたしがどこにいるのかわからない。



茉文側にわたしがついているなら、政界の人間は絶対に手を貸してくれるだろうし。

脳内で内容を軽く整理して、「わかった」とうなずく。




『今からどうする気?』



「一度家に帰るわ。

彼はいま大学に行ってるから家を空けてるだろうし、荷物だけ取りに行ってくる」



『……そっか』



「指輪も返さなきゃいけないもの」



ふたつの指輪が嵌められた左手の薬指。

茉文の身を守るためなら、愛を誓ったそれも捨ててしまえる。……だってはじめからそうだった。



みんなが救ってくれただけで。

わたしははじめから、同じ運命をたどってた。



夢のようなひと時を過ごせただけでも幸せだと思える。

……でももうこの負の連鎖を終わらせる以外に、みんなを守る方法なんて、ないでしょう?



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