【完】こちら王宮学園生徒会執行部



「南々瀬」



隣に座る茉文に名前を呼ばれて、顔を上げる。

目が合った瞬間に涙があふれてきてしまって、ゆがむ視界で茉文が困った顔をしたのがわかった。



「よかったね、南々瀬」



「っ……」



「良いニュースだったんだから、笑ってよ」



そんなこと言われたって、無理だ。

自分の力じゃどうすることもできないくせに、茉文を見捨てられなくて、わたしはいつみにもらった大切な指輪を自ら手放した。



それはまた、わたしの薬指に戻ってきたけど。

だからって簡単に気持ちの整理ができるような問題じゃなかった。




好き。好きだ。

この先もずっと、わたしはいつみしか見えない。



滑稽なくらい、彼にだけ一途でいられる。

だけどまだ、怖がってる自分がいるの。……こうやっていつみを巻き込んでしまった自分に、このままじゃだめなんじゃないかって、ひどく怯えてる。



「俺と結婚する?」



ふっと。

笑みを浮かべた茉文のその言葉さえ、わたしへの気遣い。……昔からそうだった。



散々な思いもさせられてきたし、何度も彼にドン引きしてきたけど、それでも茉文を見捨てられなかったのは。

彼がわたしのことを本気で好きでいてくれていることも、ばかみたいに大きな優しさも、知っていたからだ。



「……いつみが帰ってきたら、話をするわ」



茉文にもらった指輪は彼に返した。

それを再び嵌める日は二度と来ないと断言できる。



< 189 / 276 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop