【完】こちら王宮学園生徒会執行部
「南々瀬」
隣に座る茉文に名前を呼ばれて、顔を上げる。
目が合った瞬間に涙があふれてきてしまって、ゆがむ視界で茉文が困った顔をしたのがわかった。
「よかったね、南々瀬」
「っ……」
「良いニュースだったんだから、笑ってよ」
そんなこと言われたって、無理だ。
自分の力じゃどうすることもできないくせに、茉文を見捨てられなくて、わたしはいつみにもらった大切な指輪を自ら手放した。
それはまた、わたしの薬指に戻ってきたけど。
だからって簡単に気持ちの整理ができるような問題じゃなかった。
好き。好きだ。
この先もずっと、わたしはいつみしか見えない。
滑稽なくらい、彼にだけ一途でいられる。
だけどまだ、怖がってる自分がいるの。……こうやっていつみを巻き込んでしまった自分に、このままじゃだめなんじゃないかって、ひどく怯えてる。
「俺と結婚する?」
ふっと。
笑みを浮かべた茉文のその言葉さえ、わたしへの気遣い。……昔からそうだった。
散々な思いもさせられてきたし、何度も彼にドン引きしてきたけど、それでも茉文を見捨てられなかったのは。
彼がわたしのことを本気で好きでいてくれていることも、ばかみたいに大きな優しさも、知っていたからだ。
「……いつみが帰ってきたら、話をするわ」
茉文にもらった指輪は彼に返した。
それを再び嵌める日は二度と来ないと断言できる。