【完】こちら王宮学園生徒会執行部
だってわたしは茉文のことを好きにはならないから。
そしてわたしが彼と結婚する理由も、もうなくなったから。
……人質という言葉の中にすこしだけ混ぜられた本気に、気づかないほど、鈍感じゃなかったけど。
それに気づいたフリをする必要はない。わたしは何も知らなかったかのように、鈍感なままで良い。……茉文もそれを望んでる。
「ただいま」
しばらくして。
証拠は警察にすべて渡してきたらしい彼が、ざわめきを取り戻した部屋の中に帰宅した。
みんなで「おかえり」を返した後、茉文は彼に何かを囁くように告げて、帰っていった。
その茉文を引き止めることもしなかったわたしの前で足を止めたいつみは、わたしの左手を掬うように持ち上げる。
「南々瀬」
ふたたび戻ってきた指輪に、落とされるキス。
……涙が出そうなくらい愛おしかったけど、だめだ。
「いつみ……」
「ん?」
わたしが出会ったあの城の、絶対王者。──いまはわたしの城になった、あの場所の。
彼がいなければ、わたしは今ここにいられなかった。……そうやって二度も、救ってもらった。
だけど。……だけどね、いつみ。
「わたしと……別れてください」
これ以上はもう、だめだ。
好きでどうしようもないけど、愛おしくて泣きそうだけど、それでももう、だめなの。
わたしを危険な目に遭わせたくないって、いつみはそう言ってくれた。
当たり前だけど、同じことをわたしも思ってる。……だから、そばにいるのが怖くてたまらない。