【完】こちら王宮学園生徒会執行部
ひっそり電話をかけにきたのか、南々瀬ちゃんの声は心做しか小さい。
それから焦ったように店の場所だけを告げて、「待ってますから!」と言い残して、電話が切れた。
……泥酔してるいくみが、男に連れてかれる?
「俺の嫁もここまで送れよ」
電話の内容が、まるで分かっていたように。
いつみから投げ渡されたキーを受け取って、慌ただしく部屋を出る。……マジで、冗談じゃねえよ。
地下まで降りて駐車場に停まっているいつみの車に乗り込んだ。
使うことがないから現状俺は車を持ってないだけで、免許はちゃんと持ってるし。こうやってたまにいつみの車を借りることもあるから、勝手は知ってる。
「ああもう、クソ……っ」
すげえイライラするわ。
……俺の隣にいねえことに、腹立ってしょうがねえよ。
「っ、いくみ……!」
どうしたって俺は永遠にいくみよりも年下だし。
わがまま、っていくみに大して思うくせに、俺だって大概わがままなんだろうし。甘えさせるつもりで甘えさせられてたのは、結局俺のほう。
「……夕帆?」
早急に店に到着すれば、そこはちょっと洒落たバーで。
勢いよく扉を開けたことで、そう広くはない店内の注目が集まる。
「……、いくみ」
隣の席に座ってるのは男。
でもいくみが、泥酔しているようには見えない。
もしかして、と反対隣の南々瀬ちゃんを見れば、彼女は俺の言いたいことがわかっているようで口元の笑みを深めた。
……これは、完全に、してやられたな。