【完】こちら王宮学園生徒会執行部
……なんだか、去年の夏休み明けのあの日みたいだ。
あの日も、彼に、こうやって抱きしめられて。
「いつみ?」
振り返ると、いつもより漆黒の瞳が深い色に見える。
吸い込まれそうなそれを見つめていれば、くちびるに優しく落とされるくちづけ。いつも通りの、キスのはずなのに。
「南々瀬」
なんだか、ひどく神聖な儀式みたいだった。
「……南々瀬が、高校を卒業したら、」
シンと静まり返った部屋。
いつもこれだけ静かなら、扉の向こうの音がわずかに聞こえてくるはずなのに。──心臓の音が、これ以上ないくらいうるさくて。
するりと伸びてきた彼の指先が、今日も褪せない輝きを放つ指輪を嵌めた薬指を優しく撫でる。
くすぐるような撫で方に、思わず肩をすくめた。
「結婚しようか」
「ッ、」
"卒業したら"と言われた途端にすこしばかり予想はしていたのに、実際に言われるだけで、こんなにも動揺してしまう。
この言葉を聞いたのは、二度目だ。
「……正直な気持ちを聞かせてくれれば良い。
それを聞いた上で、今日、親に話をしたい」
「わ、たし……」
一度目は、彼の卒業式の時。
そして、あのときの、わたしの返事は──……。