【完】こちら王宮学園生徒会執行部
俺が勝てるものなんて、たぶん何もない。
だから"できる"ことを証明したかった。
その手段が、俺にとっては役者で。
どれだけ両親が兄貴のことを褒めようと、俺はその場を幾度となく平然とした顔でやりきってきた。だから、比較的顔に出さないのは得意。
別に演技が上手いって思ってたわけじゃないけど。
唯一できることがそれしかなかったから、それを必然的に目指すようになっただけ。
小6のときに受けた、事務所のオーディション。
イケメン俳優やらアイドルやらを売り出すその事務所を受けただけあって、俺が通った理由はおそらく「顔」。
兄貴と似ている部分で通ったのは不服だけど。
それを利用して入ったのは俺だから、まあいい。
第一関門を突破するなら、実力よりもそっちのほうが良いと思ったから。
無事に事務所に入った俺は、レッスンもちゃんと受けてたし、事務所内の評判も悪くなかった。
いまよりは冷めてなくて、何かと一生懸命だった。
……だけど、それが、壊れたのは。
「……は?」
「だから、これ、夕帆なの。
お化粧だけで、すっごく美人さんになれるものなのねえ」
兄貴が高校を入学して、俺が中学に入学してすぐのこと。
もともとそれぞれ片親と住んでいるから会う機会はなかったけれど、兄貴の高校受験やら俺の事務所の関係やらで、会う機会は余計に減っていて。
ひさしぶりに顔を合わせたのは、兄貴が制服姿を見せるついでに家に夕飯を食べにきたとき。
兄貴の見た目の性別が、女になってた。
「なんだよ夕陽、実の兄貴に見惚れた?」
「………」
何かが、目の前で、はじけた気がした。