令息の愛情は、こじらせ女子を抱きしめる ー。
会いたい夜。
「華那さんに・・・、息子と別れてもらいたいんです。」
ー 彼のお母さんからの言葉を理解するよりも先に。私は、まるで魂を引き抜かれたような鈍い痛みに襲われ、胸に大きな穴が空いた・・・。
放心状態の私を前に。彼の母、ソフィーさんは話し続ける。
「昨夜のパーティーで、テオドールとあなたが、いかに想い合っているかは、よく分かりました・・・。華那さんが、息子を想ってくださる気持ちは、母親としてとても嬉しく思います。でもね、華那さん、愛だけでは一緒にいられないの。ごめんなさい。こんなことをあなたに申し上げるのは、大変失礼だと分かっているけれど・・・。」
ソフィーさんのこわばった表情を見て私は、この後、彼女が私を深く傷つけることを言うのだと分かった・・・。
「華那さんと結婚して、苦労したり、恥ずかしい思いをするのはテオドールの方なんです・・・。」
私が内心、ずっと不安に思っていたことをソフィーさんは言った・・・。
「あなたも知っての通り。私の息子、テオドールは、いずれ『sourire'dange』を背負っていかなければならない立場です。結婚相手には、彼と対等なステータスの女性が求められるわ。」
”ステータス”そう言われて私は差し出すものが見つからない・・・。
テオドールと私を結びつけているものは、愛情という目には見えない絆 ー。
「うちのブランドをひいきにしてくださるお客様には、政財界や財閥の方も多くいらっしゃいます。そういった方々が開くパーティーに夫婦で招待された時、テオドールの妻となった女性は多くを求められるの。」
多くとは、容姿や家柄はもちろんのこと、学識や教養・・・。この中で、ただ一つでも抜きん出ているものが私には備わっているだろうか?私は応えることが出来ない・・・。
テオドールの妻となる女性が『sourire'dange』の名にふさわしくないと思われれば、彼に恥をかかせてしまう。それは、ブランドの信用にも関わること・・・。
「ごめんなさい。華那さん・・・。テオドールを愛しているのなら、身を引いてください。」
ー どうやって家まで帰ってきたのか記憶がない。ただ、彼のお母さんの言葉だけがずっと頭の中で繰り返していた・・・。
家に着いて、私は何もやる気が起きず、部屋の明かりもつけず、しばらくの間は暖房さえもつけず、ただ座り込んでずっと同じことを考えていた・・・。
自分のくしゃみで、ようやく部屋の中が冷え切っていることに気がつきオイルヒーターをつけた。
ヒーターの温かい熱を感じると、テオドールに抱かれた時の彼のぬくもりを思い出す・・・。そうしたら、私から遠ざかって行くかもしれない彼のことが無性に恋しくなって、今すぐ抱きしめてほしいと心が叫んだ。けれど、相変わらず部屋には独りぼっちで・・・。
私は泣いた・・・。
次第に大きくなる電話のベルで私は目を覚ました。泣き疲れていつの間にか眠っていた・・・。
電話の相手は、彼からだった ー。
テオドールは忙しい合間を縫って毎日、電話かメールをくれた・・・。
「今夜は一段と寒いね。こんな夜は、君と強く抱きしめあって温まりたいな・・・。君に会いたい。」
私を求める彼からのラブコールに、胸が”グッ”と締めつけられた・・・。今日彼のお母さんに、テオドールと別れてほしいと言われてむしろ、余計に彼を求める気持ちが強くなっていた。理屈では、もう、どうしようもできない感情が身も心も彼を欲していた ー。
そして、私は切羽詰まった声でテオドールに言った・・・。
「私も、会いたい・・・!」
パリ郊外にある私のアパルトマンは、深夜ともなると辺りを暗闇が支配して、女性が一人で出歩くのは、はばかられる。
深夜の静寂の中に唯一響くエンジン音・・・。
いつも遅刻魔の私が、この時は気が急いて吐く息が白くなる気温の中、コートも羽織らずに、彼が現れるアパルトマンの外まで急いで向かった・・・。
真夜中の暗闇の中で吐く息は白く独りということも忘れ、私は、ただひたすらテオドールに抱きしめられることだけを考えていた。
路上に横付けされた車の中から降りてきたテオドールは、スーツ姿のままだった ー。きっと、今日も夜遅くまで仕事をしていて、私との電話を切った後すぐに、会社からここまで愛車を走らせたのだろう・・・。
「華那・・・っ!こんな格好で・・・。」
コートも羽織らず真冬の真夜中に、外にいる私を見てテオドールは驚き少しでも温めようと腕で包み込みながら、急いで部屋へと向かった。
暖房の効いた部屋に入っても、しばらく私の体は冷え切っていた。テオドールは、ヒーターの前に私を連れて行くと毛布でくるんで、その上から抱きしめてくれた。
「あんな格好で外にいたらダメだよ。凍え死んでしまうだろう・・・っ。それに、真夜中で真っ暗なんだから、女の子が一人でいたら危ない・・・!」
テオドールは無茶をした私を心配して叱った。
彼を求める気持ちが抑制できずに冷静さを失い、結局彼を心配させてしまった・・・。何より、今日もテオドールは遅くまで仕事をしていて、明日も朝早いのに。私が堪えれば良かったんだ・・・。
「ごめんね・・・。」
私は、彼に抱きしめられながら謝った。
「うん?何?」
「私、あなたの負担になるようなことばかりして・・・。ごめんなさい・・・。」
私の落胆した声を聞いて彼は、一度強く抱きしめたあと、ゆっくりと体を離して熱のこもった瞳で私を見つめた。
「キスしていい・・・?」
そう言ったテオドールの言葉には”負担になどなっていない。俺は、君を必要としている。”という意味が込められていると分かった。そんな彼に胸の奥から愛しさが込み上げてきて、密かに抱え込んだ不安感と相まって私は情熱的になった。
「ん・・・っっ。」
「・・・んっっ、ゥ・・・ン・・・ッッ。」
深いキス ー。
吐息交じりにテオドールは私に言った。
「・・・どうしたの?今日は、とても情熱的だね・・・。さっきの電話の声も・・・。」
切ない顔をして艶っぽく濡れる彼の瞳の奥は少し戸惑っていた。
「・・・なんだか、今日の華那はいつもと感じが違う。もしかして、何かあった・・・??」
彼に改まって聞かれても、私は今日あった出来事を正直に打ち明けることができなかった。
「・・・ううん。何もないよ・・・っ。」
テオドールは訝しげに私の様子をうかがった。・・・そして、彼は言った。
「ごめん、華那。俺、まだ君に話してないことがあって・・・。実は今日、両親から見合いしろって言われたんだ。もちろん、断ったよ。俺には、華那が居るだろう・・・!って・・・。」
ー そんなことが・・・!さっき彼も、やけに電話口で私を求めていたのは、彼も私と同じように恋人が自分から遠ざかって行くかもしれないという不安に駆られたからだろうか・・・。
彼の両親が決めた見合い相手は、きっと家柄も良く才色兼備で申し分のない女性に違いない。でも彼は見合いを断って私との結婚を選んでくれた。そんな彼の気持ちがとても嬉しかった・・・。だから、私もきちんとテオドールと向き合わなければ。
「華那は・・・?まだ、俺に話してないこと。」
テオドールは、真実を知ろうと、こわいくらい真剣な目で私を見つめた。
私は今日、彼のお母さんに言われたことを打ち明けてはいけないと思っていた・・・。それは、真相を明かしたら、きっと私以上にテオドールが傷つくと思ったから・・・。だけど、本当のことを打ち明けてくれて、そして、私との結婚を選んでくれた彼と向き合うために、私は恐る恐る真相を明かした。
「今日、あなたのお母さんに会って・・・。あなたと別れてほしいって・・・。」
予想していた通り。彼は困惑して、それからとても悲しい顔をした・・・。
「母さんが・・・!?君にそんなことを・・・。ごめんね・・・!!君を深く傷つけてしまった・・・。」
私は彼の傷ついた顔を見て、やはり言うべきではなかったと思った。それでも、彼と向き合うためには正直に打ち明ける他なかったとも思った・・・。
「私は・・・大丈夫だよ。あなたが、お見合いを断って私と結婚したいって言ってくれこと、とても嬉しかった・・・。きっと、お母さんは、テオのために・・・。」
不安に押し潰されそうな気持ちをかかえて身をすくませながら、小さな声で話す私の様子を見て彼は言った。
「辛い思いをさせて、本当にごめん・・・!!俺は、絶対に君とは別れない。」
それからテオドールは、私を強く抱きしめてくれた・・・。彼の胸は相変わらず温かくて安心できた ー。
彼の胸に抱かれて目を閉じていると、安心したからか少しづつ眠気がやってきて私の意識は、どんどん遠ざかっていった・・・。
夢の中でアラーム音が鳴り、目を覚ますとそこはベッドの上だった。昨日、テオドールの胸に抱かれて眠りに落ちた私を彼は、ベッドまで運んでくれ、私達は一緒に眠っていた。
「・・・おはよ。」
「おはよ・・・ごめんね。私、昨日あのまま眠って・・・。」
するとテオドールは、私の髪を優しく撫でて言った。
「謝ることないよ。俺が抱きしめて安心してくれたから、眠くなったんでしょ・・・?華那が安心してくれたから俺も安心できた。大丈夫だよ、俺達は絶対に離れないから・・・!」
両親のことは必ず説得するから心配しなくて大丈夫と、彼は笑顔で言ってくれた。
ー 二人で結婚の報告をしようと・・・。
太陽が、まだ顔を出しておらず辺りが青白く映えて、肌を刺すような冷気が漂う早朝に、私はパリの中心街へと向かう彼の背中を見送った ー。
部屋に戻り、カレンダーに目をやると、今日から新しい月が始まっていた。それは私に、ワーキングホリデーの終了まで一ヶ月を切ったということを教えていた・・・。
テオドールがプロポーズしてくれた時、私は日本には帰らずにテオドールと結婚して、フランスに永住しようと決心した・・・。
彼の愛は本物。私も彼を愛している。
・・・それでもまた。彼のお母さんの言葉が頭を駆け巡る。”テオドールを愛しているのなら・・・、”
私は彼を愛するためには、一体どうすれば良いのか分からなくなった・・・。
ー 彼のお母さんからの言葉を理解するよりも先に。私は、まるで魂を引き抜かれたような鈍い痛みに襲われ、胸に大きな穴が空いた・・・。
放心状態の私を前に。彼の母、ソフィーさんは話し続ける。
「昨夜のパーティーで、テオドールとあなたが、いかに想い合っているかは、よく分かりました・・・。華那さんが、息子を想ってくださる気持ちは、母親としてとても嬉しく思います。でもね、華那さん、愛だけでは一緒にいられないの。ごめんなさい。こんなことをあなたに申し上げるのは、大変失礼だと分かっているけれど・・・。」
ソフィーさんのこわばった表情を見て私は、この後、彼女が私を深く傷つけることを言うのだと分かった・・・。
「華那さんと結婚して、苦労したり、恥ずかしい思いをするのはテオドールの方なんです・・・。」
私が内心、ずっと不安に思っていたことをソフィーさんは言った・・・。
「あなたも知っての通り。私の息子、テオドールは、いずれ『sourire'dange』を背負っていかなければならない立場です。結婚相手には、彼と対等なステータスの女性が求められるわ。」
”ステータス”そう言われて私は差し出すものが見つからない・・・。
テオドールと私を結びつけているものは、愛情という目には見えない絆 ー。
「うちのブランドをひいきにしてくださるお客様には、政財界や財閥の方も多くいらっしゃいます。そういった方々が開くパーティーに夫婦で招待された時、テオドールの妻となった女性は多くを求められるの。」
多くとは、容姿や家柄はもちろんのこと、学識や教養・・・。この中で、ただ一つでも抜きん出ているものが私には備わっているだろうか?私は応えることが出来ない・・・。
テオドールの妻となる女性が『sourire'dange』の名にふさわしくないと思われれば、彼に恥をかかせてしまう。それは、ブランドの信用にも関わること・・・。
「ごめんなさい。華那さん・・・。テオドールを愛しているのなら、身を引いてください。」
ー どうやって家まで帰ってきたのか記憶がない。ただ、彼のお母さんの言葉だけがずっと頭の中で繰り返していた・・・。
家に着いて、私は何もやる気が起きず、部屋の明かりもつけず、しばらくの間は暖房さえもつけず、ただ座り込んでずっと同じことを考えていた・・・。
自分のくしゃみで、ようやく部屋の中が冷え切っていることに気がつきオイルヒーターをつけた。
ヒーターの温かい熱を感じると、テオドールに抱かれた時の彼のぬくもりを思い出す・・・。そうしたら、私から遠ざかって行くかもしれない彼のことが無性に恋しくなって、今すぐ抱きしめてほしいと心が叫んだ。けれど、相変わらず部屋には独りぼっちで・・・。
私は泣いた・・・。
次第に大きくなる電話のベルで私は目を覚ました。泣き疲れていつの間にか眠っていた・・・。
電話の相手は、彼からだった ー。
テオドールは忙しい合間を縫って毎日、電話かメールをくれた・・・。
「今夜は一段と寒いね。こんな夜は、君と強く抱きしめあって温まりたいな・・・。君に会いたい。」
私を求める彼からのラブコールに、胸が”グッ”と締めつけられた・・・。今日彼のお母さんに、テオドールと別れてほしいと言われてむしろ、余計に彼を求める気持ちが強くなっていた。理屈では、もう、どうしようもできない感情が身も心も彼を欲していた ー。
そして、私は切羽詰まった声でテオドールに言った・・・。
「私も、会いたい・・・!」
パリ郊外にある私のアパルトマンは、深夜ともなると辺りを暗闇が支配して、女性が一人で出歩くのは、はばかられる。
深夜の静寂の中に唯一響くエンジン音・・・。
いつも遅刻魔の私が、この時は気が急いて吐く息が白くなる気温の中、コートも羽織らずに、彼が現れるアパルトマンの外まで急いで向かった・・・。
真夜中の暗闇の中で吐く息は白く独りということも忘れ、私は、ただひたすらテオドールに抱きしめられることだけを考えていた。
路上に横付けされた車の中から降りてきたテオドールは、スーツ姿のままだった ー。きっと、今日も夜遅くまで仕事をしていて、私との電話を切った後すぐに、会社からここまで愛車を走らせたのだろう・・・。
「華那・・・っ!こんな格好で・・・。」
コートも羽織らず真冬の真夜中に、外にいる私を見てテオドールは驚き少しでも温めようと腕で包み込みながら、急いで部屋へと向かった。
暖房の効いた部屋に入っても、しばらく私の体は冷え切っていた。テオドールは、ヒーターの前に私を連れて行くと毛布でくるんで、その上から抱きしめてくれた。
「あんな格好で外にいたらダメだよ。凍え死んでしまうだろう・・・っ。それに、真夜中で真っ暗なんだから、女の子が一人でいたら危ない・・・!」
テオドールは無茶をした私を心配して叱った。
彼を求める気持ちが抑制できずに冷静さを失い、結局彼を心配させてしまった・・・。何より、今日もテオドールは遅くまで仕事をしていて、明日も朝早いのに。私が堪えれば良かったんだ・・・。
「ごめんね・・・。」
私は、彼に抱きしめられながら謝った。
「うん?何?」
「私、あなたの負担になるようなことばかりして・・・。ごめんなさい・・・。」
私の落胆した声を聞いて彼は、一度強く抱きしめたあと、ゆっくりと体を離して熱のこもった瞳で私を見つめた。
「キスしていい・・・?」
そう言ったテオドールの言葉には”負担になどなっていない。俺は、君を必要としている。”という意味が込められていると分かった。そんな彼に胸の奥から愛しさが込み上げてきて、密かに抱え込んだ不安感と相まって私は情熱的になった。
「ん・・・っっ。」
「・・・んっっ、ゥ・・・ン・・・ッッ。」
深いキス ー。
吐息交じりにテオドールは私に言った。
「・・・どうしたの?今日は、とても情熱的だね・・・。さっきの電話の声も・・・。」
切ない顔をして艶っぽく濡れる彼の瞳の奥は少し戸惑っていた。
「・・・なんだか、今日の華那はいつもと感じが違う。もしかして、何かあった・・・??」
彼に改まって聞かれても、私は今日あった出来事を正直に打ち明けることができなかった。
「・・・ううん。何もないよ・・・っ。」
テオドールは訝しげに私の様子をうかがった。・・・そして、彼は言った。
「ごめん、華那。俺、まだ君に話してないことがあって・・・。実は今日、両親から見合いしろって言われたんだ。もちろん、断ったよ。俺には、華那が居るだろう・・・!って・・・。」
ー そんなことが・・・!さっき彼も、やけに電話口で私を求めていたのは、彼も私と同じように恋人が自分から遠ざかって行くかもしれないという不安に駆られたからだろうか・・・。
彼の両親が決めた見合い相手は、きっと家柄も良く才色兼備で申し分のない女性に違いない。でも彼は見合いを断って私との結婚を選んでくれた。そんな彼の気持ちがとても嬉しかった・・・。だから、私もきちんとテオドールと向き合わなければ。
「華那は・・・?まだ、俺に話してないこと。」
テオドールは、真実を知ろうと、こわいくらい真剣な目で私を見つめた。
私は今日、彼のお母さんに言われたことを打ち明けてはいけないと思っていた・・・。それは、真相を明かしたら、きっと私以上にテオドールが傷つくと思ったから・・・。だけど、本当のことを打ち明けてくれて、そして、私との結婚を選んでくれた彼と向き合うために、私は恐る恐る真相を明かした。
「今日、あなたのお母さんに会って・・・。あなたと別れてほしいって・・・。」
予想していた通り。彼は困惑して、それからとても悲しい顔をした・・・。
「母さんが・・・!?君にそんなことを・・・。ごめんね・・・!!君を深く傷つけてしまった・・・。」
私は彼の傷ついた顔を見て、やはり言うべきではなかったと思った。それでも、彼と向き合うためには正直に打ち明ける他なかったとも思った・・・。
「私は・・・大丈夫だよ。あなたが、お見合いを断って私と結婚したいって言ってくれこと、とても嬉しかった・・・。きっと、お母さんは、テオのために・・・。」
不安に押し潰されそうな気持ちをかかえて身をすくませながら、小さな声で話す私の様子を見て彼は言った。
「辛い思いをさせて、本当にごめん・・・!!俺は、絶対に君とは別れない。」
それからテオドールは、私を強く抱きしめてくれた・・・。彼の胸は相変わらず温かくて安心できた ー。
彼の胸に抱かれて目を閉じていると、安心したからか少しづつ眠気がやってきて私の意識は、どんどん遠ざかっていった・・・。
夢の中でアラーム音が鳴り、目を覚ますとそこはベッドの上だった。昨日、テオドールの胸に抱かれて眠りに落ちた私を彼は、ベッドまで運んでくれ、私達は一緒に眠っていた。
「・・・おはよ。」
「おはよ・・・ごめんね。私、昨日あのまま眠って・・・。」
するとテオドールは、私の髪を優しく撫でて言った。
「謝ることないよ。俺が抱きしめて安心してくれたから、眠くなったんでしょ・・・?華那が安心してくれたから俺も安心できた。大丈夫だよ、俺達は絶対に離れないから・・・!」
両親のことは必ず説得するから心配しなくて大丈夫と、彼は笑顔で言ってくれた。
ー 二人で結婚の報告をしようと・・・。
太陽が、まだ顔を出しておらず辺りが青白く映えて、肌を刺すような冷気が漂う早朝に、私はパリの中心街へと向かう彼の背中を見送った ー。
部屋に戻り、カレンダーに目をやると、今日から新しい月が始まっていた。それは私に、ワーキングホリデーの終了まで一ヶ月を切ったということを教えていた・・・。
テオドールがプロポーズしてくれた時、私は日本には帰らずにテオドールと結婚して、フランスに永住しようと決心した・・・。
彼の愛は本物。私も彼を愛している。
・・・それでもまた。彼のお母さんの言葉が頭を駆け巡る。”テオドールを愛しているのなら・・・、”
私は彼を愛するためには、一体どうすれば良いのか分からなくなった・・・。