お願いドクター、毒よりも愛を囁いて
「無理するな。変に遠慮して悪化しても知らないぞ」


どうしても送りたそうに聞こえる。
ほっといてほしいのに…と思うのに、それをストレートに伝える勇気も湧かず。


「悪化なんてしませんよ」


根拠もなくそう言い返し、靴の中に足を入れた。

もう一度だけお礼を言ってから出ようと振り向けば、ドクターの後ろには女神像の様な彼女がいて__


二人が並んで立ってるのを見ると胸がきゅん…と狭くなった。
似合い過ぎてて、二人とも大人に見えて___



「………」


情けないことに何も言えずに頭だけ下げた。
踵を返すとドアを抜け、階段を降りると同時に足早に歩きだす。



逃げる様に藤田外科病院を後にした。
バス停に着くと同時にバスが来て、飛び乗るようにしてステップを上がった。


走りだすと距離がどんどん離れてく。

小さく溜息を漏らして後ろを振り返ってもドクターの姿はなく、胸の中からはモヤッと感が薄れていかずに残った。



……彼女はドクターの何なんだろう。

バーで会ったエリナさんといい、今のあの人といい、どれだけ大人な感じの女性ばかりが周りにいるんだ。


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