お願いドクター、毒よりも愛を囁いて
……だけど、私はとことんツキの無い女子だった。
助手席のドアを少し開けた時に着信音が聞こえ、ドクターが手元に置いてたスマホを見遣る。


出ないで〜!と願えるような関係じゃない。
それに、どうも出ないとマズい相手のようだ。



「……もしもし、藤田ですが」


ドクターは面倒くさそうな顔つきで前に向き直り、通話ボタンをタップして出た。

スマホの向こうから微かに聞こえてくる声は男性のもので、ドクターの横顔は真面目そうにその声を聞き、神妙そうに「はい、はい」と答えてる。


何だかとっても重大そうな雰囲気。
私は知らん顔して車に乗り込んでもいいのかな。


どうしようかと迷ってると、ドクターの声が「これからですか?」と驚いた。

眉間にシワが寄るのが見えて、ああ、やっぱりツイてない…と落ち込んでくる。


「……分かりました部長。直ぐにエリナと連絡を取って向かいます」


躊躇いもなく答えるとドクターはスマホを切ってこっちを見遣る。

私はドクターが何かを言いだす前に自分から歩いて帰りますねと言わなくちゃ…と考え、ゴクッと喉を鳴らした。


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