お願いドクター、毒よりも愛を囁いて
「勿体ぶって言おうとするなんてドクターらしくもない」


強がって独り言を喋る。


「私用が入ったから歩いて帰れ、と言えば良かったのに」


それで構わないのに。
変に気を遣うような態度を見せたりしないで、アッサリとした感じでいても平気なのに。


「そりゃ少しはなんだ、と思うかもしれないけど、別にだからと言って恨んだりもしないしさ」


乳くさい女子だから子供みたいに拗ねるとでも思ったんだろうか。


「お生憎様、そこまで心狭くないよぉ〜だ!」


夕食を作る為に鍋に水を入れて沸かす。
あまり立ってない方が足にいいと思うから今夜はパスタにしようと決めた。


グラグラと沸き立つ湯の中にパスタを入れて混ぜ、箸で時々バラつかせながら煮ていく。


その作業をしながらドクターは今頃何処で何を食べてるかな…と想像した。
あのバーで会ったエリナさんと部長って父親と三人で、フランス料理か何かのコースでも口にしてるんだろうか。



「それに比べてこっちはパスタか…」


ミートソースもレトルトだしなと思うと、情けなぁ…と声が漏れる。
半分以上は羨む気持ちもあって、同時に少しだけ妬んだ。


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