お願いドクター、毒よりも愛を囁いて
ドクターが車を出す前に見せた表情。
困ったな…という雰囲気の後、諦めがついた様に引き締まった。


あの一瞬、きゅん…と胸が鳴った。
行かないでくれたらいいのに…と、そう思ってしまった。


大きく息を吐いてパスタをザルに上げる。

煙のように沸き上がる湯気の熱を感じながら、自分の気持ちが同じく湧いてくるように思った……。




翌朝起きると、足は腫れも引いて痛みも少ない。
流石はドクターの治療だと言うか、湿布が効いてるだけか。


「ご飯食べたら診察代支払ってから仕事に行こう」


パンをトーストしてカップスープを作る。
ミニトマトとスクランブルエッグで簡単な朝食を済ませてから部屋を出た。


病院へ行ったらドクターはいるかな。
昨夜は如何でした〜?と、イヤミの一つでも言ってやろうか。



「…まあ、しないけどね」


バスに揺られ最寄りのバス停で降りる。
昨日事故のあった交差点では、血液も拭き取られたのか見当たらず、白いチョークで検証した跡だけが残されてた。



(あの救急車で運ばれてった人、無事だったのかな…)


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