お願いドクター、毒よりも愛を囁いて
亡くなってなければいいが…と思いながら藤田外科病院の自動ドアを抜けた。

スリッパを履いて待合室へ入ると、受付の女性は私を見て立ち上がり、ニコッと笑いながら「おはようございます」と挨拶した。

此の所すっかり常連じみてる私が頭を下げて近付けば、今日はどうされました?と訊ねてくる。


「右足首を捻挫して」


「えっ!今度は捻挫!?」


災難ですね〜と同情してくれて、何とも言えず少しだけ情けなさを感じる。


「それをこちらの先生に治療してもらったんで、今日はその診察代を支払いに来ました」


「えっ!?先生が!?」


昨日も一昨日も休診だったから驚かれた。
長々と経緯を説明するのも面倒で、まあそうです…と答えれば。


「そうなんですか。じゃあ掛けてお待ち下さい」


まだ診療前だから仕様がない。
言われた通りに長椅子に腰掛け、名前を呼ばれるのを待った。


その間、受付の女性はカルテを抜き取り、同じカウンター内にいる人に小声で話し掛けてる。

話しかけられた人はカルテを見て悩み、二人して「どうする?」と言い合った。


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