お願いドクター、毒よりも愛を囁いて
面白そうに話しだす顔を眺め、へぇー…と声を出した。


「お酒も強くて結構飲んでも崩れないのに、あの日は荒れてたよね」


その言葉に思い出した。
ビールのジョッキを片手にテーブルに伏せるようにしていた相手を。


「あの時、新さんが来たじゃない。その前に彼女、一緒に飲んでた相手にキレてさ。
『帰って!』と怒鳴ってた。顔も見たくないって雰囲気で」


余程頭にくることがあったんだろうと推測している。
俺は本人から聞いてるから、だろうね…とあっさり聞き流した。


「一緒に飲んでた人、なかなかの切れ者みたいなんだよ。話してる事も着眼点が普通と違うって言うか、あれはオフィスでも一目置かれてる存在だろうよ」


興味を引かせる為にわざと話してくるのか、あまり深入りして聞きたくもなくなる。


「その人と話してる時のあの子、とてもイキイキしてていいんだよね。輝いてると言うか、魅力的でさ」


「マスター」


バーボンのグラスを飲み干し、お代わりを要求した。
深入りして聞かないと決めている筈なのに、耳はいつの間に傾いていたらしい。


「はいはい」


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