お願いドクター、毒よりも愛を囁いて
彼女にしてみれば、私があれだけ本気で取り組んだ商品だからこそ、世の中に出回って欲しいと願ったんだろうと思うのに……。


「私一人でも平気ですから!」


どうせこの最近ツイてないんだ。
だったら、ここでもう一つ二つツキの無いことが増えても何ともない。


プイッと顔を背けてビールを呷った。
その後、村田さんがどんな風に帰ったのかは覚えてない。

ただ、一言だけ謝ってた。


「波南の強い思いが込もった商品を売り出したかったの…」


だから、ごめんね……って。


顔を背けたままで聞いて、有難いと思ったけど悔しかった。
悔しくて涙を我慢してビールを飲み続けた。



どれくらい飲んでたかは思い出せない。
気付けば結構お客さんが増えてて、マスターから「いい加減にしなさい」と怒られた。


「そんな飲み方をしてると二日酔いになるよ」


顎髭を生やしたマスターはそう言った。
そんなこと分かってます!と言い返し、それでもジョッキを手放さずにいた。


そこにあの人が来たんだ。
カウンターでクダを巻く私を見つけ、何やってんだ!?と呆れ返った。


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