お願いドクター、毒よりも愛を囁いて
「何するんれすか!返してっ!」


下がった瞼のせいで前があんまりよく見えてない。
自分ではドクターを睨んでるつもりなんだけど、彼にとっては眠そうにしか見えなかったかもしれない。


「女のくせにヤケ酒なんて煽るな!」


取り上げたジョッキをマスターに戻し、自分はバーボンのグラスを受け取る。


「いーじゃないれすか!わらしらって、ヤケ酒煽りたい時もあるんれすよぅ!」


ビールを取り上げるならそっちを寄越せとばかりに腕を伸ばす。


「おっと!」


グラスを避けるドクターの胸に突っ込む格好となり、私はそのまま凭れ込んでしまった。


「何やってんだ、全く!」


グラスをカウンターに置いたドクターは、自分の胸に額をくっ付ける格好の私を引き剥がそうとしたんだが__


「うっ…気持ち悪っ…」


胃を圧迫する様な格好になったからだろうか。
急に吐き気がして口を覆った。


「うわっ!待て!吐くな!」


仰け反りながら狼狽えるドクターを見て、いつも吐かれる毒よりも強い兵器を手に入れた様な気がした。


「……フッ」


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