お願いドクター、毒よりも愛を囁いて
ドクターはそう言うと部屋の隅に置いてあった丸椅子を持ってくる。
ベッドの横にそれを置くと座り直し、じっと眺めてるから食べづらくって。


「あの…見られてたら食べれないです」


そもそもあんまり食欲もない。


「つべこべ言わずにとっとと食べろ!人の親が折角あんたにと作ったんだから」


ほらっ、と言って味噌汁のお椀を取り上げる。
手に持とうとしたら唇に押し当てられて「飲め!」と命令口調で言われた。


(ひぇーっ…)


ドクターに飲ませて頂くなんて滅相もない。
殺される!いや、毒かも。


「少しでいいから飲んでみろ。二日酔いに効くシジミ汁だ」


そう言う声が優しく聞こえてじっと顔を見てた目線を汁に移した。
ふぅ…と少し息を吹いたら器を傾けてくれて、ズッと啜ればシジミの香りが鼻の奥に広がった。


「美味しい」


ゴクンと飲み込んで呟くと、だろうと自慢する声がして。


「あとは自分で飲めるか?」


「…はい。大丈夫です」


どぎまぎしながら答えた。


「ちゃんと食べろよ」


ドクターはお椀をトレイに置いた。

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