お願いドクター、毒よりも愛を囁いて
昼休みに入り、私は即座に席を立った。

藤田外科病院の午前診療は十二時半まで。
それに間に合うように行かないといけないから。


「ちょっと出掛けて来まーす!」


声高らかに部署を出て、更衣室のドアを開けて上着のジャケットを羽織る。季節はすっかり冬に近く、今朝もスゴく寒かった。


ドアを閉めようとして財布を取り忘れてたと思い出した。
右手と左手、同時に動かしたもんだからドアに指先を詰めてしまい……


「いったぁー!」


思いきり中指を挟み込んだ。
爪先が真っ赤になり、血こそ出てないけどジンジン痛む。


「くぅ〜っ、ツイてない」


痛む指先に息を吹きかけても痛い。
その指先を浮かすようにして手を伸ばし、財布をそっと取り出してからポケットに突っ込んだ。


オフィスを出ると街路樹の葉が舞い散る中を歩いてく。


藤田外科病院へ行ったらドクターはどんな顔をするだろう。
また来たのか呆れ、週初めからあんたの顔を見ることになるなんてなぁ…と、バカにされたりするんだろうか。


(それでもタダ酒って訳にはいかないし)


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