気付けば、君の腕の中。


あたしはへらりと笑って「大丈夫だから」と二人の背中を押した。


…大丈夫って何がなんだろう。


何度も振り返る二人は、ゆっくりと出口を目指して歩き出す。

しっかりと凜くんの手は桃の右手を掴んでいるから、二人がはぐれる心配はないだろう。


これでよかったはずなのに、喉に小骨が引っかかったかのように、口が開いては閉じる。


…最初から凜くんに教えたらよかったのだ。


ようやく恋人らしい雰囲気を見せた二人を見送ると、あたしは近くのベンチに腰を下ろした。



「…五十嵐くん、やっぱりまだ帰ってなかったんだね」



段々と寒さが身に染みてきたときに、夜空を見上げると、五十嵐くんは凜くんたちとは反対方面から歩いてきた。


「……お前、襲われてーから残ってんの?」


< 107 / 445 >

この作品をシェア

pagetop