気付けば、君の腕の中。
出て行ってしまったお父さんを見送ると、床に座り込むお母さんに近寄った。
「…お母さん、その、お茶飲む?」
腰を屈めると、お母さんはあたしの両手を自分の手のひらで包んだ。
今まで触れるどころか、振り払われることが多かったため、言葉を失った。
「ごめんね…、お母さんまだあの人のこと、好きだったみたいなの…」
「それ、って…」
「でも、もうあの人はお母さんのこと、好きじゃないみたいで……。絢華に話しても、困らせるだけだって、分かってるの…」
「そんな、あたしは…」
「…絢華」
久しぶりに見たお母さんの笑顔は―、とても悲痛なものでしかなかった。
「お母さん…、もう疲れたわ。だから、絢華は過去に縛られないで。昔の家族なんて取り戻せないのよ。…諦めて頂戴」