気付けば、君の腕の中。
三つ隣の家に住む男の子が転校してきて、早一週間。
あれから駅のホームで会うこともなければ、学校内ですれ違うこともない。
もしかしたらあの日、男の子と会ったのは夢だったのではと思うほど、記憶は日々薄れていった。
今日は朝早くから挨拶委員会の仕事があるため、1本早めの電車に乗り込む。
いつもは混んでいるはずの電車内は空いていた。
何となく立ちたい気分だったため、扉近くの手すりに掴まった。
「坂木くん。どこ見てるの~?」
不意に聞こえた声にびくりと震え上がった。