気付けば、君の腕の中。


大抵の女の子はそれを聞いて、「そっか、ならいいね」で済まされた。

みんな、独りが嫌だから付き合っているのだ。


嫌っていないと分かれば、別れる理由もない。



俺と一ノ瀬の足元に、誰かが捨てた空き缶が転がってきた。

カラカラと軽い音を立てるそれに視線を向けていると、一ノ瀬がぽつりと呟いた。



『坂木くんは他に好きな子…、いるよね?』

『…え?』



意味が分からなくて一ノ瀬を見ると、彼女はやはり俺を見ていた。


『やっと今日…、ちゃんと目が合ったね』

『そ、そうかな? 俺は見てたと思うけど』


足元に転がっていた空き缶を拾った俺は、そのまま弧を描いてゴミ箱に入れて見せた。



『…そっか。なら、いいんだけど…変なこと聞いてごめんね』


それきり一ノ瀬は口を閉ざした。

俺は初めて「焦り」を感じた―。



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