気付けば、君の腕の中。
てっきりあたし一人だけしか乗っていないと思ってたけど、他にも誰かが乗っているみたいだ。
ちらりと横目で確認すれば、ふわふわの髪を揺らす女の子。
座る彼女の前に立つ男の子は―、あたしが話しかけたかったあの男の子だった。
「…いや、何でもない。
それよりここの髪、はねてるよ」
「えっ、嘘ぉ。どこ??」
「ここ」
彼女さん、かな。
優しく彼女の髪に触れる男の子は、とても穏やかな表情を浮かべていた。
それを見たあたしは話しかけたい気持ちが薄れていく。
きっと…、あの男の子とはご縁がなかった、それだけの話しだ。
二人の和気藹々とした会話を遮るように、そっと鞄から音楽プレイヤーを取り出した。