気付けば、君の腕の中。
昔、お父さんは仕事が嫌いだと言っていた。
上司は自分の嫌な仕事を押し付けてくるし、部下は自分の言うことを聞かず、好き勝手に生きているから、と。
だから、あたしは「どうしてそこまでして、働こうとするの?」と聞いた。
お父さんは小さい頃のあたしの手を握り締めると、目を細めた。
『そりゃあ、大切な妻と可愛い娘に色んなものを買ってあげたいしなあ。
家族のためなら誰だって頑張れるもんさ』
あの言葉を忘れていなかったら―…、あたしは頑張れていたはずなのに。
「…あたしがご飯を当たり前のように食べられるのは、お父さんとお母さんのおかげだった。
学校に通えるのだって、二人がいなかったら出来なかったことなのに…」