気付けば、君の腕の中。
言葉とは裏腹に、優しい手つきにびくりと肩が震えた。
「顔、赤ぇーけど」
「なな、慣れてないの!」
「ふーん」
一瞬だけ頬を緩めた五十嵐くんは、不意に立ち上がって席に戻っていく。
ホッと胸を撫で下ろしたのも束の間。目の前にガタン!と大きな音を立てて、凜くんが座った。
何故だか苛立っているようで、鞄から乱暴に教科書を取り出す。
…凜くん、相変わらず寝癖があるなあ。
話しかけたいのに…、それすら出来ないあたしは臆病者だ。
先生が来るまで顔を伏せると、目の前に座る凜くんがあたしを呼んだような気がした―。