気付けば、君の腕の中。
優しげな女性はじょうろを片付けると、あたしに手洗い場所と幼稚園の中を案内してくれた。
「で、でも…いいんですか? あたしが入っちゃっても…」
「もちろん。元々人手が少ない幼稚園だったから、むしろ有難いわ」
「そういえば…、確かに他の先生がいませんね」
辺りを見渡すと、突き当たりの部屋以外、電気が点いていない。
前を歩く女性は振り返ると、悲しげな表情で微笑んだ。
「…本当は私と、私の娘しか先生はいないの。こんな田舎町だし…、元々子供が少ないのよ」
「その娘さんは…」
「もう二十歳を超えているのに、未だに反抗期でね…。仕事はこなしてくれるんだけど、話しかけても無視されちゃうの」
頬に手を当てて、少しだけ目を潤ませた女性に、何故だかお母さんと重なって見えた。