気付けば、君の腕の中。
それは一瞬の動きだった。
男の子の伸ばした手のひらは、あたしの後頭部へ回る。
片方の手のひらは壊れ物を扱うように背中に触れた。
少し寝癖のついた男の子の髪が揺れる。
頭を預けるようにあたしの肩に置いた男の子に、呼吸の仕方を忘れてしまった。
「…気持ち悪いかも知れないけど、ごめん。ちょっとだけ…我慢してて」
縋るように男の子の手のひらが服を掴んでいた。
それから震えが伝わってくる。
あたしは目を伏せると、ぎこちなく頷いて腕をだらりと下ろした。
もう二度と男の子とは会えないと思っていた。
それなのに今、こうして抱きしめられているなんて…。
熱くなる頬を隠すように、あたしも男の子の肩に額を寄せた。