気付けば、君の腕の中。
+ 名前を聞けた日
男の子があたしを離したのは、軽快な着信音が鳴り響いたときだった。
ハッと我に返ると、男の子が携帯を操作して、少しだけ眉を下げている。
「? ど、どうしたの?」
先ほどまで抱きしめられていたため、少しだけ気まずい。
平静を装いつつ訊ねると、男の子は悲しそうな瞳をして笑った。
…まるで、今のあたしと同じように。
「…母さんが、そろそろ帰ってくる」
「っ! あ、あたしも帰らないと…!!」
そうだ、薬局に行ってたのだ。
サアアと青ざめると、男の子の少し大きな手のひらがあたしの肩に触れる。
「大丈夫だよ。目を見て謝れば許してくれるはずだから。
それと、その…また話しても、いい?」
「勿論!」
そこで男の子と別れると、名前を聞きそびれたことに今更思い出す。
振り返っても男の子は家に入ってしまったのか、既に姿は見えない。