気付けば、君の腕の中。
俺が知らない世界を知るたびに「もっとらくにいきろよ」と言った言葉すら、当の本人は覚えていないのだろう。
心底嫌だけど、俺にとって五十嵐は幼馴染のようで、兄にも近い存在だった。
…だから、幼馴染に戻れなくても、兄のように慕えなくても、友達にはなりたかったのが本音だったのだが…、前言撤回。
あんな悪魔、俺は友達になりたくない。
気づけば、絢華と何か話した後、五十嵐は席に戻って行った。
俺はイライラしながら黒板へ視線を向けると、偶然にも絢華の前のようだ。
…つまり、先ほどまで五十嵐が座っていたのは、俺の席だったのだ。
思わず頭を抱えたくなるのを抑えた。