気付けば、君の腕の中。
少し悩んだ素振りを見せた五十嵐くんは、あたしをじっと見つめた。
あまりにも長い沈黙と、至近距離で見つめられて、何だか居たたまれない気持ちになる。
視線をうろうろさせていると、クツクツと笑う声が聞こえた。
「おれも、今はいい」
ガタリと立ち上がった五十嵐くんは、あたしの鞄を手に取った。
「時間、もうそろそろだろ。帰んぞ」
「え、嘘! 折角だから何か絵を描きたかったのに…」
「どーせ明日から好きに来ていいんだから、明日の楽しみに取っとけよ」
ぐいぐいと五十嵐くんの腕に引っ張られて、美術室を出ると、鍵を返すために職員室へ向かった。
凜くんとは違う五十嵐くんの手のひらに、少しドキリと胸が高鳴ってしまったのは気のせいだろう。