気付けば、君の腕の中。


…その、凜くんのお母さんにあたしの名前を知られたってことは、絶対彼女だと誤解してるよね…!!


真っ赤な顔を両手で隠すと、凜くんがあたしの頭をゆるりと撫でた。


「大丈夫だよ、絢華は彼女じゃないって言ったから」

「…!」

「? 顔、赤いけど大丈夫?」

「だ、だだ大丈夫!!」


突然の名前呼びにどきりとしてしまった。

凜くんは女の子の扱いが物凄く上手だ。


簡単に喜ばせたり、触れたり。

…ちくりと胸が痛んだけれど、きっと気のせいだろう。



「あ、り、凜くん。電車来たよ」


誤魔化すように言えば、凜くんはとても優しげな瞳であたしを見つめていた。

それは凜くんの彼女に向けるような視線と同じ様に見えて、パッと視線を逸らす。

どうして、こんなにもドキドキして息苦しいのか…あたしは知らない振りをした―。


< 30 / 445 >

この作品をシェア

pagetop