気付けば、君の腕の中。


不意にひなちゃんが「おねえさん」と呼んだ。

あたしは誰かが置いていったアヒルのおもちゃを見つめた後、ひなちゃんに視線を向ける。


「ん?」

「おにいちゃんのこと、なんでなまえでよばないの?」

「えっ、五十嵐くんのこと?」

「うん……、なんかきょりがとおくてやだ…。おにいちゃんだって、あやかおねえさんのことバカとかいうし…」

「あれは…その…、特に気にしたことがなかったっていうか…」

「だから! おふろからあがったら、おにいちゃんのことをなまえでよんでね!」

「ええっ!?」


そ、そんなことをしたら頬を摘むか、デコピンをしてくるか、最悪睨んでくるよ…!


青ざめるあたしとは正反対に、ひなちゃんはわくわくとしながら「がんばって」と言った。


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