気付けば、君の腕の中。
+ 距離が縮まる日
放課後、引退した美術部へ向かっていた。
正直な話をすると、あたしに絵心なんて全くなかった。
むしろ元美術部だったお姉ちゃんの方が繊細な絵が描けると言ってもいいほどだ。
掃除をしたばかりの廊下はつるつるとしていて滑りやすい。
鈍くさいあたしは此処で何度も転んだっけ、と一人苦笑しながら歩き進めると、目の前に凜くんが立ち止まっていた。
「…? 凜くん、何してるんだろう」
恐らく帰宅する途中なのか鞄を肩にかけて、窓の外をぼんやりとした瞳で見つめている。
頭の中で何故か嫌な予感がしながら、あたしは近寄っていた。
「……!!」
凜くんの視線の先には、あたしが幼稚園の頃から仲がよかった一ノ瀬 桃(いちのせ もも)がいた―。