気付けば、君の腕の中。
バッと振り返った五十嵐くんは「は、え、な」と口を動かせて、顔を真っ赤にさせた。
ぽかんとしている間に駅に着いて、五十嵐くんはひなちゃんを抱っこする。
俯いてしまった五十嵐くんに、謝ろうとしたときだった。
「っ…バカ、絢華…次苗字で呼んでも振り返らねーからな」
「っへ?」
「っ…!」
踵を返した五十嵐くん…、じゃなくて陰輔くんは物凄いスピードで走り去ってしまった。
一人残されたあたしは、開いた口が塞がらず、暫くその場で立ち尽くした。
「あ、あの……陰輔くんが、照れた…?」
あたしの小さな声は誰にも届かないまま、ゆっくりと夜空に溶け込んだ。