気付けば、君の腕の中。
ぐいぐいと迫る奈々美にあたしは困り果てた。
「だ、だって…、凜くんとは前に奈々美に話したとおり、一度も話せてないんだ。
何故か分からないけど避けられてるし…」
「じゃあ、もう一人の人は? 五十嵐、だっけ?」
「あ、い、陰輔くんはその…」
「“陰輔くん”!? 何で急に名前呼び!?」
ぎょっとしたようにどら焼きを握りつぶしてしまった奈々美は、続きが気になるようで興奮していた。
「…その、貸しがあって、陰輔くんの妹にオムライスの作り方を教えてほしいって頼まれたんだ」
「へーえ? それで?」
「それで妹と遊んだら泥だらけになって…」
「うんうん」
「その時着替えがなかったから、陰輔くんの服を借りて、妹と一緒に銭湯に行ったんだけど…」
「待って」