気付けば、君の腕の中。
ガタン、と電車が揺れるたびに、あたしの心も一緒に揺れ動いた気がした。
「凜くんが…、ずっと欲しかったのは彼女じゃなかった。“絢華みたいな人が傍にいてほしかった”って言われて、凄く嬉しかった」
「絢華が坂木の“友達”になるって決意したときから、ずっと疑問に思ってたのよね。
坂木は…本当は絢華に“恋愛”を教えて欲しかったんじゃないの?」
「嘘……、だって凜くんはあたしのこと“友達”がいいって望んでたよ…?」
「それは坂木が過去に怯えてたからでしょ?
全部一ノ瀬さんから聞いたのよ。坂木はずっと“自分”じゃなくて絢華を見てたって」
どくりと心臓が震えた。
あたしが家から飛び出したあの日、凜くんと一緒に公園に行ったあの時―、凜くんは何を言いかけてた?
…それを遮ってしまったから、凜くんは何かを思って…キス、をしたの?
「坂木が絢華を避け始めたのって、その五十嵐って人と仲良くなってからじゃない?」