気付けば、君の腕の中。
凜くんに向かっていたあたしの足はぴたりと止まってしまった。
頬を赤らめる凜くんは、まるで恋する乙女のようだ。
どうしてあたしがモヤモヤした感情を抱えているのか分からない。
泣きたくなるような感情が、一気に襲いかかってきた。
「あれ、絢華?」
「っ凜くん…」
包み込むような優しい声に顔を上げると、いつも通り穏やかな笑みを浮かべる凜くんがすぐそこまで来ていた。
驚いて後ずさると、凜くんは不思議そうに首を傾げている。
「部活…は引退したんだよね?」
「う、うん! そうなの、実は美術室にあたしの絵の具とか置いて来ちゃったから、部長に部室の鍵を借りてて…凜くんはここで何してたの?」
あたしのバカ…!
聞かなくてもいいことを口にしてしまった。