気付けば、君の腕の中。
一歩進むと、引き返したくなった。
駅で手を振ったとき、陰輔くんはどんな表情を浮かべていたのだろう。
―「…おい、何辛気くせー顔してんだよ」
あたしのことなんて興味がなかったくせに、気づけばいつも心配してくれた。
―「はー、これは貸し一つにするからな」
陰輔くんと過ごした時間は、決して短いものではなくて。
泣いてばかりだったあたしの腕を引っ張ったのは、他の誰でもない彼だった。
―「…貸し、二つにしてやったから。感謝しろよ」
凜くんと会わせてくれたのも、陰輔くんだ。